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川魚の専門店「鮒新」は、開業約70年。伏見では、かつて巨椋池(昭和初期…1926年頃に干拓)や琵琶湖~淀川(隣県から京都伏見及び大阪へ流れる川)の影響により川魚を食す文化がさかんで、海魚を売る魚屋とは別に「川魚屋」というものも数多くありました。今では川魚屋さんが減少している中で、「鮒新」はますます貴重になる川魚文化を、三代にわたり守り続けるお店です。

◇川魚は“生きたまま仕入れて捌く”が基本

川魚は毎朝市場と、市場には出回らない鰻や鯉を専門の業者から仕入れています。足が早い川魚は、生きたまま仕入れて店で捌く(さばく)のが基本です。すぐに捌かない魚は、お店にある深井戸から組み上げた地下水に泳がせ、鮮度を保っておきます。捌き(さばき)をするのに、2代目店主の佐野さんは、朝4時半に起きて、鰻を“朝開き”する生活を40年近く続けています。生きたまま動き回る鰻を捌くのは、職人技。特殊な技術と経験、そして相当の力が必要です。「子どもの頃から店で遊びながら、先代が捌く姿を見ていた。こういう職人の仕事は、見て覚えるもんだ」と、佐野さんは語ります。

神物としての鯉や鮎

寒い季節に味わえるのは、もろこ・鮒。年末になると正月のお煮つけ用の鮒を求めて遠くからお客様が訪れます。お腹が膨れた子持ちの魚も、冬場だけのお楽しみです。夏の定番は鯉や鮎。土用の丑の日(7月の18日〜19日を指す)には、鮮度が高く美味しい鰻を求めて、店前に長蛇の列ができます。毎年佐野さんお一人で、一日千匹もの鰻を開きます! 鰻を捌く(さばく)技術を持つ職人は、今や全国でも希少です。しかし安心・新鮮な国産鰻を求めるお客さんのニーズは変わりません。蒲焼きのタレも、創業以来継ぎ足し続けている秘伝の味です。またお店を必要としているのは、地域の家庭だけではない。生きた鯉や鮎を神物として捧げる風習のある近隣の寺社とも、長年のお付き合い。鮒新は京都・伏見の食文化を支えている存在です。

◇保存食の文化

朝捌いた(さばいた)川魚は、昼過ぎには鮮度が落ちてしまいます。そのため新鮮なうちに佃煮等に加工する、保存食の文化も育まれてきました。大豆と川エビを一緒に炊いた「海老豆」やうなぎの蒲焼きを出汁入り卵で巻いた「う巻」は「鮒新」の看板商品です。「海老豆」は、“海老のように腰が曲がるまで、いつまでもまめに暮らせますように”という願いを込めて作られてきた縁起の良い料理です。

納屋町商店街の南詰のほど近くにある「ギフト&陶器 しばた」さん。朝9時半頃に納屋町商店街を歩くと、このお店の前が特にきれいに掃除されていることに目が留まります。しばたさんの創業は1835年でここ納屋町商店街でも一番古いお店です。元々は清水焼の卸しをしていましたが、戦後、引越しに合わせて小売業を始めました。お店には、清水焼や有田焼の陶器から、洋風のお皿やコーヒーカップ、昆布、洗剤など店内ところ狭しと並んでいます。

「贈り物という日本の大切な文化を伝える場所」

日本人は物を贈りあうことで、人間関係を円滑にしていたんです。

日本人の文化の一つに「物を贈りあう文化」があります。友人の家に行く時、引越しをした時、出産した時、結婚したとき、病気が治った時、親戚の家に伺う時、あらゆる時に日本人は物を贈りあっています。これは物を添えることで会話が弾んだり、やりとりが生まれやすくして人間関係を円滑にしていくためのものなんです。引っ越してきた時にはタオルを贈るとか、出世した時には出世魚(稚魚から成魚までの成長段階において異なる名称を持つ魚)だから鰹節(カツオの肉を加熱してから乾燥させた日本の保存食品)を贈るなど、その時々に相手のことを考え、を選んでいたんです。

贈り物の「しきたり」

贈り物を渡すときには、喜んでもらう物を選ぶのが一番いい方法なのですが、選んではいけない物もあります。例えば、結婚のお祝いに洗剤を贈るのは『泡になる、流れる』を連想させるから適しません。昔から守られてきたそのような考え方のことを「しきたり」といいます。
最近はインターネットやスーパーでも気軽に贈答品を買えるので、それは便利な反面、昔の人が大切にしてきた「しきたり」や細やかな心配りが忘れられがちです。店主さんは誰に渡すのか、どういった理由で渡すのかを相談すればベストな物を一緒に選んでくれます。
ギフトの専門店にはコップやお酒、お皿、時計などなど種類も豊富に揃っています。お帰りの際、贈り物してみてはいかがでしょうか。

納屋町商店街の北詰から少し南に下ると、川魚がならぶ「鮒新」さんの南隣に工具や台所用品が所狭しと並んでいるお店が目に入ります。これが「竹市刃物店」です。明治の頃から納屋町で営んできた金物店が、1938年に刃物に特化して分家してできました。様々な包丁やハサミといった刃物の販売や刃物研ぎ、合いカギの取り替えなどを行っています。

台所から板場(プロの調理場)まで認める刃物の職人

ええもん売ってたらまた帰ってくる。それが信用

安い値段で中国産などの刃物が簡単に買えて、使えなくなればすぐに新しいものに買い換えるのが主流になっている今の時代で、刃物店は京都で数えるほどしか残っていません。そんな中で店主の氏本功(うじものいさお)さんは、先代からこの場所で80年、良いものを手入れしながら使っていくという刃物の文化を伝えています。
「切れへんようなものは売らへんよ。安いもん買ってたらすぐダメになるしな。親父がな、無理には売るなと言うてたんや。ええもん売ってたらまた帰ってくるってな。それが信用なんやろうな。」
氏本さんは、良い刃物の特徴は材質に「粘り」があることだと教えてくれました。鋼を叩いている間にかすが出て、鉄の材質が良くなるので、いい刃物を見分け方は、鋼と地金の色合いがはっきりしているものがポイントとのこと。刃物の柄の部分にも工夫があって、良い品には丈夫な牛の角が使われているのだとか。いい刃物を知ってその使い勝手の違いを理解して使い続けることで、刃物への愛着が生まれていくのでしょう。
「どこで聞いたのか、外国人も訪ねてくるで。外国人の方がよう知っとるわ」そう氏本さんは語ります。

親から子へ、何代にもわたって使われる道具

氏本さんは、岐阜県の関地方産・兵庫県の三木地方産と店内の品物は産地もそれぞれ熟知されておりますが、それもひとつひとつの品物が長く使われることを願ってのことです。鰹節(かつおぶし)(カツオの肉を加熱してから乾燥させた日本の保存食品)を削るカツオ箱という道具は一生どころではなく何代も受け継がれていくものだと語ります。そういった刃物の手入れも請け負っている氏元さんの元へは本職の板前さん(日本料理店・料亭で料理をつくる人)も通っています。

納屋町商店街の北西側に綺麗なお花が並んだ広い空間があります。
「なかむら 花・漬物店」は1954年に開業しました。元々は生け花「専慶流」の教授だった先代が京都伏見の観月橋という地区で開いていた花屋を納屋町商店街に移転し、同時に漬け物の販売も開始しました。現在では、店内の右側には旬のお漬け物、左側には季節のお花が、それぞれ色鮮やかに並んでいます。店主は二代目です。

【漬け物は発酵食品・保存食で、本来は賞味期限がないもの。そして漬ける人の手によって味が変わるんです】

62年かけた ぬか床が醸す味

先代、そして2代目の中村さんは、開業以来ぬか床を毎日混ぜ続けてきました。その間、実に62年です。「手を掛けて育てられたぬか床のうまみは、時代を超えた味わいなんだ。昔からの菌が、うちの店の味なんだ」と2代目中村さんは語ります。
日本に古くからある「お漬け物」は発酵食品・保存食で、本来は賞味期限がありません。しかし今一般に食卓に上がる漬け物の多くは「浅漬け」で、かつての漬物とは漬ける期間も味わいも異なります。半月以上漬けたなかむら製のきゅうりの漬物は、個人差はありますが、食べ始めはさわやかで、噛んでいるうちに口中に深みのあるすっぱさが広がります。とても深くて豊かな味わいなのが特長です。「昔の人が元気やったんは、こういうもの(発酵食品)を食べてたからやな」と、中村さんは語ります。お漬物は健康面でも良いとされることがあり、ご飯と一緒に食べると免疫力をアップさせると言われています。お店で取り扱う商品は中村さん自らが漬けたもの、もしくは信頼できる問屋さんが手塩にかけて作った逸品です。

栄養&うまみたっぷり 伏見の発酵食品

おすすめの漬物は、季節ごとに違い、夏のオススメはキュウリ、秋は白かぶらや大根菜など。冬に美味しいのは、ぬか漬け・千枚漬(聖護院かぶらを薄く輪切りにし、昆布とさとう、醸造酢などで味付けした京漬物)・すぐき。他にも店先には珍しいピーマンの漬物、昔馴染みの「養老漬」など多種類の漬物や、酒蔵の多い伏見ならではの酒粕やこぼれ梅(みりん粕)も並ぶ。伏見の食文化を支えてきた発酵食品も楽しめます。